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産休・育休の変更について

 

こんにちは。NPO法人「こだまの集い」理事の森安 元希です。普段は企業主導型保育事業施設「保育所くまこぐま」(https://kumakoguma.com)の園長として保育施設の運営と経営、また保育士として子どもたちの保育をしています。

「産前休暇」「産後休暇」「育児休業」の制度に今年、大きい変更が起きます。

これから予定がある方、身近に休暇休業中の友人知人がいる方、法人を運営されている方、ぜひ知っておいていただきたい変更ですので、出来るだけ分かりやすいようにとりまとめてみました。

 今回の改正・変更では2つの変更が大きなテーマとなっています。

休暇自体を取りやすくする」というものと、「男性配偶者の育児参加を促す」ものです。

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まず現行の休暇・休業制度について、整理します。

基本的には「育児・介護休業法」という「子の育児と親族の介護によるお休みを就労者は権利として有している」ということを詳しく定めた規定により制定されています。

 

 

「産休」について

 

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「産休」とは「産前休暇」と「産後休暇」をまとめた呼び方です。

「産前産後休」とも呼びます。

 「産前休暇」は「出生予定日42日前」から「母本人が希望」すれば取得できる休暇です。

※双子などの「多児妊娠」の場合は「98日前」から適用が出来ます。「産後休暇」は「出生日から出生後56日後」まで母本人が取得することが「義務」づけられている休暇です。

※「産休」期間中は(法人から直接ではなく)「健康保険」により「出産手当金」が支給され、通常の給与の2/3程度の支給となります。

また「出産手当金」とは別に出産の際にかかる入院費などをまかなう「出産育児一時金」が出生後に支給されます。こちらは本人の収入状況などに関わらず一律「42万円」です。

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これらとは別に、出生前後で自治体などが個人に対して独自の支援、補助をしている場合も多くありますが統一された内容ではないので説明を省略いたします。(杉並区では「ゆりかご券」「子育て応援券」制度などが該当します。)

※2人目以降の妊娠・出産の場合、「産休」期間中は上の子の保育園利用が可能です。保育園の利用にあたっては各自治体が定める「保育を必要とする事由」を満たす必要がありますが、「妊娠または出産」に関して「産休」期間中は全ての自治体が必ず適用している事由となります。

 

 

「育休」「育児休業」について

 

「育児休業」とは「産後休暇」後に「妻か夫の希望」で取れる「長期休業」のことです。

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※休暇と休業の使い分けは短期か長期かで使い分けられていることが多いです。育児休暇という表記や育児休業(休暇)という併記がされている文章もありますが意味合いは変わりません。

「育休」は「妻か配偶者の希望」により「その子が満1歳になる日まで」取得できます。

ただし「妻と配偶者」が並行して育休を取得する場合には「1歳2か月」まで育休期間が延長できる「パパ・ママ育休プラス」という制度が既に制定されています。

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「パパ・ママ育休プラス」の取得要件は3つあります。

 1.配偶者が子の1歳に達する日以前において育休をしていること

2.妻の育休開始予定日が子の1歳の誕生日以前であること

3.妻の育児休業予定日が配偶者の育休の初日以降であること

「1.」「2.」はプラスの期間前から通常の育休を取得していれば満たす要件ですが、「3.」に関しては注意が必要となります。

「3.」に「該当しないケース」は「配偶者の育休が妻本人の育休より後から開始する」という

ものであり、「実際にはじめてみたら妻一人の育休では大変だったから配偶者が追加で育休を取得した」という現実的に考えられるパターンでもパパ・ママ育休プラスの取得は出来ないということになります。

※妻本人と配偶者が育休を「同日」に開始する場合はパパ・ママ育休プラスを取得できます。

 このパパ・ママ育休プラスとは別に「満1歳になるに際して保育所に入れない」などの場合に最大2歳に達する日まで育休の延長が可能です。

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※「育児・介護休業法」における最低限満たされる内容です。就労先の法人が別途追加の時期や加算などを定めている場合には、そちらに準拠します。

※2人目以降の育児の場合、「育休」期間中に上の子の保育園が利用できるかどうかは実質的に自治体・保育園判断によります。「保育を必要とする事由」において「就労」の項目は基本的には「育児休業中は含めない」とされていますが、「下の子の育休期間中であっても、その子自身は保育園の利用の継続が必要と認められた場合」には利用が出来ると表現している自治体が多いです。

「認可」「認証」「企業主導型」など保育園の制度によっても対応が変わる部分ですので、希望施設での対応については事前のご確認をお勧めいたします。

 

 

表①杉並区における「認可」を利用するにあたって「保育を必要とする事由」一覧

保育を必要とする事由:認定有効期間

就労:就労している期間

※ただし育児休業中の方は復職月から有効。なお、当該児童の育児休業から復職せずに下の子の出産休暇中に入所を希望する場合、「妊娠または出産」に該当します。

疾病または障害:各事由が生じている期間

介護または看護:各事由が生じている期間

災害復旧:各事由が生じている期間

妊娠または出産:出産予定月の前2か月から、出産(予定)日から起算して8週間を経過する日の翌日が属する月の末日まで

求職活動:認定希望月の初日から起算して90日を経過する日が属する月の末日まで

就学(職業訓練):在学している期間

虐待・DV:保育を必要とする期間

その他上記に類する状態として区が認める場合:保育を必要とする期間

(注)いずれの場合も、その家庭で、妻と配偶者以外の人が児童の保育ができる場合は除きます

 

「認可」ではない「認証」と「企業主導型」もおおむね同じ種類の「保育を必要とする事由」の確認により子どもを預かります。提出書類や基準値などの確認方法は施設ごとに異なりますので、こちらも希望施設での方法について事前のご確認をお勧めします。

 「その他上記に類する状態」は継続的かつ社会的な奉仕活動(ボランティア)などに適用の推奨と実績があります。

また「下の子の育児休業期間中」の利用にあっても、その他の項目で受け入れる場合があります。

 

内閣府の公表としても以下の理由などを明示しています。

「次年度に小学校入学を控えるなど、子どもの発達上環境の変化が好ましくないと考えらえる場合」「保護者の健康上やその子どもの発達上環境の変化が好ましくないと考えられる場合」「上記要件に該当しない期間があり一度退所したが、復職に伴う再入所を希望する場合には優先利用を適用する」など児童福祉の観点での継続入所、優先再入所を可能としているケースが多くあります。

現行の制度を踏まえ、新しく制定された制度についての説明にうつります。

 

 

「出生時育児休業」

 

 

2022年「10月」から施行される「出生時育児休業産後パパ育休は、母本人の「産後休暇」(産後8週間)の間に配偶者が取得できる休暇休業制度です。 

期間内であれば「合計4週間」を「2回に分割」して取得することができます。

パターン①:「出生日当日から産後4週間まで」

パターン②:「出生日当日から産後2週間まで」と「産後6週間から産後8週間まで」

パターン③:「産後4週間から産後8週間まで」

などが主なパターンになると思われます。

また「出生時育児休業(産後パパ育休)」は状況の変化等が大きい時期であることも考慮されるようになり、これまでの通常の育休では2か月前までに申し出が必要だったものが「休業2週間前までの申し出」で取得が可能になりました。

※事前に予定立てている場合には速やかな申し出がアクシデントの防止につながります。

 

 

「育休中の就労」

 

 

法人と就労者がお互いの合意のもとで結ぶ「労使協定」の項目に、「育休期間中でも、時間等を制限した就労就業」を含めることが出来るようになります。

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就労形態の多様化に伴い、在宅就労を含めた「育児の空き時間」を活用する短時間就労の制度を活用する業種も今後増えてくると思われます。

ただし労使協定に盛り込まれる文章やその理解度、業種によっても実運用の内容が大きく違うことも予想され、こちらも誤解やアクシデントの防止としてどのような運用を見込んでいるのかを雇用法人へご確認することをお勧めします。

 ※保育園における「保育を必要とする事由」において、この「育休期間中の短時間就労」がどのような判断をされるかまだ明らかになっていない部分があります。

10月以降、労使協定の内容などを踏まえ、希望施設へのご相談をお勧めします。

 ※元々、パートなどを含めた「短時間就労での受け入れ」を「保育を必要とする事由」として積極的に認める「企業主導型」などについては原則要件を満たすものだと理解しています。

 

 

「分割取得」

 

 

「出生時育児休業(産後パパ育休)」を含め、育児休業について「分割取得」が容易に出来るようになります。特に妻と配偶者が育休の期間を重複しないで取得する「交代」タイプの推奨もされています。

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以下の「図①」は夫(配偶者)が複数回の育休を取る2例です。

どちらも「出生当日から2週間」「産後6週から8週」「保育所に入所できずに育休を延長したあとは交互に育休を取得する」のパターンです。

「例1」は満1歳になるまでの通常の育休期間中、妻が復職するタイミングがあるケースです。「例2」はこれまでの制度と同じ運用であり、妻は満1歳になるまで育休を継続して取得するケースです。

また図にはありませんし、多くないとも想定していますが、「妻も夫も途中期間に同時に復職している場合」も可能性として上がります。就労内容によっては考えられます。

こちらも保育所の入退所などの基準に関わる部分ですので、希望施設に対して事前のご確認をお勧めします。

図①

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「育児休業」に関する変更は上記の「出生時育児休業」「育休中の就労」「分割取得」が大きい変更点ですが、それらを踏まえることで変化される情勢を考慮し、東京で独自の施策がはじまります。

 

 

「託児サービス付職業訓練の拡充」

 

「産後休暇、育児休業からの復帰・復職」にあたって、生活スタイルが変更される観点から「転職」という選択肢を選ばれる方も沢山います。

 この転職、就職を目的とした技能訓練の為の施設として「職業訓練学校」に一定期間通学する場合にも、「就学」として保育を必要とする事由に認められます

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しかしながら、3~12か月程度の短期通学であることが多く、受け入れてくれる保育施設が見つけられない、また収入面の不安から保育利用料への懸念が強いなどの理由で、「職業訓練学校への通学」を要件した保育園の利用は「必要な方が利用できずにいることが多い」というのが実情でした。

 

この課題を解決するために、東京都では2022年度より「託児サービス付職業訓練」の拡充(使いやすいようにすること)の決定をしました。

 

内容としては大きく「2つ」あります。

 

1つは「職業訓練学校が近隣の保育施設と利用連携契約を結ぶ」。

保育施設に短期間の利用などの要件を事前に伝えた上で連携契約を結び、本人に使いやすい施設を通学者に通学に合わせて案内するようになるというものです。

 

もう1つは「保育利用料を学校(東京都)が負担する」。

認可保育園以外では利用者の収入状況によらず利用料が一定の施設も多いですが、その利用料を原則全額、学校(東京都)が負担して使用者の負担はなしというものです。

 

この2つの内容により、「保育園利用と同時に通学すること」が今まで以上に選択肢として選びやすくなります。また東京都の場合を案内しましたが、大阪府など既に同様の施策を実施している自治体もあります。「託児」「職業訓練」などの検索で情報を集めてみてください。

 

図②

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今回紹介させていただく新しい制度については以上になります。

世界的なコロナ感染流行という急速な変革を要素の一つとして、就労の姿勢や考え方、休暇、休業、復職に関する制度がスピーディにかつ大きく変わりつつあります。今回紹介した変更以外にも細かい変更や、各自治体などの取り組みなども沢山ありますので、「当事者」という気持ちのある方はぜひ色々と調べてみてください。

健康だけでなく生活の安定や将来などを自らの手で守るためにも、新しい制度をご活用いただければと思います。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

 

【ライター 森安元希】

 

保育士、介護福祉士、介護支援専門員

 

学生時代から非常勤のヘルパーを続け、介護福祉士、介護支援専門員を取得する。同時に、保育補助もダブルワークとして行い、保育士を取得。「介護業界に向けた保育園の在り方」と「育児世代に向けた在宅介護の在り方」を考え、企業主導型「保育所くまこぐま」を設立。園長を務める。