こんにちは。NPO法人「こだまの集い」理事の森安 元希です。普段は企業主導型保育事業施設「保育所くまこぐま」(https://kumakoguma.com)の園長として保育施設の運営と経営、また保育士として子どもたちの保育をしています。
前回の記事では「幼児教育の無償化」施策の対象となる施設とそうでない施設についての紹介をさせていただきました。今回はそこから一歩進んで「それぞれの施設でダブルケアラーにとってプラスとなる点、マイナスとなる点」を紹介していきます。
多くが「現状ダブルケアラーでない人」にも当てはまることが中心となりますが、それぞれどういった特徴があるのかを「なんとな~く」理解してくだされば幸いです。
前回の記事を踏まえた内容となりますので、是非前回の記事からお読みください。
▼「認可保育所」
▼「幼稚園」
▼「認定こども園」
▼「認可外保育施設」
▼「幼稚園類似施設」
施設の分類は引き続きこの「幼児教育の無償化」施策の対象となる5種類を採用して説明していきます。
また「認可外保育施設」については
▽「認証保育所」
▽「企業主導型保育事業」
特に他と制度が異なるこの2種類を中心にしてお伝えしたいと思います。
☑ダブルケアラーにとっての課題
また、プラスとマイナスを書く上で、ダブルケアラーの方々がどういった課題を持っているのかを把握していないといけません。当法人「こだまの集い」で実施している「ダブルケア366」というイベントや個別のケース相談などを通じて、いくつかの共通した課題があることが判明しています。
今回はその中でも「育児と介護の両立によって自由に活動できる時間が制限されていること」と「休職や辞職などによって収入が制限されていること」の2点を中心に、プラスとマイナスをお伝えしていきます。
▼「認可保育所」
-「認可保育所」がダブルケアラーにとってプラスとなる点
認可保育所の利用には保護者が仕事や病気、就学「など」の理由で「保育の必要な未就学児」が家庭にいる場合と説明しましたが、「親族の介護」も利用可能な要件にあたります。
短時間就労と介護の掛け合わせなどをしている方にとっては大きくプラスとなる項目です。
また申込が市区町村に一元化されていて各施設への事前訪問や個別契約などを最小限に抑えられ、日常的に時間の配分に制約の大きい方にも選択の余地が生まれやすいです。
応能負担の性質上、利用料金が最も抑えられることが多い施設です。特に休職や辞職により一時的に収入が大きく減る場合でもそれに合わせた料金が設定されます。
施設の安全面や人員配置の基準などが公表されているため、安心して子どもを預けられる側面があります。
多子世帯の支援も多く、第三子以降は利用料がかからないとしている自治体もあります。
-「認可保育所」がダブルケアラーにとってマイナスとなる点
制度の性質上、「個別の対応」がしづらい点は規則を遵守する良い点でもあり、目の前の課題に対応しづらいマイナスに動く点でもあります。
利用にあたって「保育の必要性」を判断する方式が各項目につけた点数を合算して他の希望者と比較する「点数制」が採用されているため、「介護」の項目に加点があってもその他の項目で加点が少ない場合には利用の優先度が著しく落ちてしまう場合があります。
また介護の対象が何親等であるかも点数が変化しやすい部分です。
また利用時間についても同様に市区町村による判断のため希望時間の利用が出来ない場合(特に継続的な延長保育が出来ない場合)があります。
人気のある施設や児童数の多い地域の場合、入所倍率が高く結果的に準備や対応などに非常に時間がかかってしまう場合もあります。
申込が市区町村に一元化されているため、該当施設の職員に家庭状況(個別対応の必要性)がどの程度伝わるかが事前に判断しにくい部分があります。
▼「幼稚園」
-「幼稚園」がダブルケアラーにとってプラスとなる点
「介護」の負担が大きく、子どもに対する占有的な時間がとりづらく自宅での家庭教育に不安がある場合、幼稚園は強い支援施設となります。
スクールバスの運用など登下校にかかるサポートが厚い場合も多いです。
私立幼稚園の場合、元は利用料金が高額であることが課題でしたが幼児教育の無償化に伴い大きく改善しました。
-「幼稚園」がダブルケアラーにとってマイナスとなる点
通常の開所時間が短いため、共働きの場合活用が限定されることが多いです。ダブルケアラーの休息休憩の時間の確保も難しいです。
私立幼稚園の場合、施設全般のなかでも利用料金が「無償化による一部補助」を考慮しても高額であることが多く、収入に制限がかかる期間では負担割合が高くなりやすいです。
授業の準備や保護者の参加を前提にした催事も多く、「保護者からみた時間の都合」という点では一番難しいとされやすい施設です。
また需要の低下と認定こども園への転用が積極的になされていて、施設自体は減少傾向にあります。
▼認定こども園
-「認定こども園」がダブルケアラーにとってプラスとなる点
これまでの施設の課題を解消するために設立された新施設であり、「認可保育所」と「幼稚園」のプラスがそれぞれ該当します。
「認可保育所」と同じく「介護」が利用要件にあたり、利用料金が抑えられやすいです。
「幼稚園」と同じく幼児教育に対して強い支援があり、登下校に関してもサポートが厚い場合があります。
-「認定こども園」がダブルケアラーにとってマイナスとなる点
「認可保育所」と「幼稚園」のプラスが組み合わさり、利用時間や利用料金などの課題が大きく緩和されていますが、「保護者からみた時間の都合」という点では引き続き大きい課題が残ります。
(授業の準備や保護者の参加を「良いこと」としてみている場合、解決されるべき課題ではないため、特定の場合ではマイナスとなってしまいます。)
また「認可保育所」と比べるとまだ数がとても少ないという現状があります。
た特徴であり、特に育児休暇からの復職に関して強い支援となります。
▼「認可外保育施設」
認可外保育施設のうち「認証保育所」(自治体基準保育所)と「企業主導型保育事業」は都道府県などの自治体もしくは内閣府の所管であり独自の制度が共通して実施されています。
今回はそれぞれのプラスとマイナスについてお伝えしていきます。
▽「認証保育所」(自治体基準保育所)
-「認証保育所」がダブルケアラーにとってプラスとなる点
東京都独自の認証を受けている「認証保育所」は認可と異なり直接契約となります。個別の家庭状況などを伝えやすく、契約前に対応方針などを確認することがしやすいです。
認証保育所の場合、「0歳児保育を実施している」「長時間(13時間以上)の開所をしている」ことが共通し
ダブルケアラーにとっても「時間の融通(長時間の預かり)」という側面では非常に強い施設です。
-「認証保育所」がダブルケアラーにとってマイナスとなる点
直接契約のため、利用料金について一律ではなく各施設が設定した一定の金額となります。運営助成が認可保育園より低い割合のため利用者負担割合が高くなりがちです。
将来的な方針として認可保育所への転化を前提に運営している施設が多くあります。
「翌年度から認可となるので認可の点数に満たない子の契約の更新が出来ません」という発表が急遽されることがあるということが近年課題の一つとなっています。
(事前に認可保育所への転化の可能性があるという旨は利用者には伝えられています)
小規模な保育所の場合は「2歳児クラスまで」の受け入れとなりますので、3歳児クラスの際に再度別の保育施設への申し込み等が必要となります。
※「子ども一人あたりの基準面積」で制限をゆるめた数字を採用しています。
認可保育所と企業主導型保育事業では「0歳児ひとりあたり3.33㎡」を採用していますが、認証保育所は「2.5㎡(75%)」を採用しています。約10㎡ごとに3人預かるか4人預かるかの違いとなります。この数字のみで判断して「安全面の不足」という表現はできませんので、補足に留めます。通常よりも人員配置を増やすなどして、より安全に運営している保育所も沢山あります。
▽「企業主導型保育事業」
-「企業主導型保育事業」がダブルケアラーにとってプラスとなる点
内閣府の所管する施設であり認可保育所に準じた運営基準を実施されています。
通常の保育所と同様の、地域の子どもたちを預かる「地域枠」での入所については入所のしやすさに関しては一番ハードルが低く設定されています。
認可保育所と同様に保護者の就労などによって子どもの保育が必要な場合に入所できるという表現は変わりませんが、点数制ではなく短時間就労などでも入所要件となります。
個別にケースを勘案し、柔軟な対応をしやすい制度でもあります。
直接契約のため利用料金について各施設が設定した金額となりますが、設置自治体の認可保育所の利用料金に準ずる金額を設定することが基準の一つとなっており、認可保育所と同額程度で利用できる施設も多くあります。認可保育所と全く同じ割合による応能負担を採択している施設もあります。
施策の性質上、小規模での保育実施が多く、人員配置に関しても厚くとることが基準とされているため、特に低年齢保育に関して適切な環境を提供できている施設が多いです。
「企業主導型保育事業」施策が5年目と新しい制度であり、多くの園で連絡帳アプリやウェブ広報の活用など新しいサービスを活用していることも特徴です。
衛生面で不安の強いオムツの持ち帰りの取りやめや、窒息の危険性の少ないコット型布団の利用など、「古い保育所などでは以前から課題とされているが改善にコストがかかる」点などについて導入時点からすでに解決していることが多いです。
保護者の負担が減るようオムツの他にも着替えやお昼寝用の布団セットなどを園で準備しているところもあります。「保護者に寄り添う」というコンセプトが強くあります。
午前のみの利用や午後のみの利用など短時間利用に関して「何時までの登校」や「何時以降の下校」などの制限がない・少ない施設もあります。
-「企業主導型保育事業」がダブルケアラーにとってマイナスとなる点
自治体の管轄ではないため、施設設置以降、自治体の公式ホームページなどに情報が記載されることが非常に遅い場合があり、自治体情報を経由する場合、施設情報が手元に届きにくい課題が強くあります。
利用料金については認可保育所水準の施設が多数派ですが、一部特定のサービスの実施などで加算されている場合があります。
施設の総定員に対して半数程度を「自社従業員の子ども」もしくは「連携契約を結んでいる会社の従業員の子ども」の利用を前提にした「従業員枠」に設定している保育所が多く、保護者の就労先が保育所と連携契約を結べない場合には「地域枠」のみの利用しか出来ず、見た目以上に受け入れ人数が少ない場合があります。
受け入れ年齢は施設によって異なりますが、小規模な認証保育所と同じように「2歳児クラスまで」としている保育所も多くあります。3歳児クラスの際に再度別の保育施設への申し込み等が必要となります。
▼「幼稚園類似施設」
-「幼稚園類似施設」がダブルケアラーにとってプラスとなる点
「幼稚園」と同じように幼児教育について特化した施設であり、強い支援を受けられます。
また明瞭な教育方針の提示や独特の授業内容を打ち出していることが多く、家庭における教育方針と一致する場合に選びやすい施設です。
今年度より利用料金の一部補助が始まりました。
-「幼稚園類似施設」がダブルケアラーにとってマイナスとなる点
「幼稚園」と異なり自治体からの運営助成を受けている施設は少なく、基本利用料金が比較的高額に設定されていることが多いです。
時間の都合などについては幼稚園同様、通常の開所時間が短いことが多く、授業の準備や保護者の参加を前提にした催事などが多い場合には「保護者自身の時間」というものは確保しづらい場合があります。
施設分類の背景から、「全ての幼稚園類似施設が確実に満たしている運営基準」というものが設定されておらず、教育方針などと合わせて時間をかけて事前に良く確認する必要があります。(※「幼稚園類似施設」が危険であるということを示すものではありません。どのように安全面に配慮しているかなどは施設のホームページなどに記載されていることが多いです。)
▼「認可保育所」
▼「幼稚園」
▼「認定こども園」
▼「認可外保育施設」
▽「認証保育所」
▽「企業主導型保育事業」
▼「幼稚園類似施設」
以上5種類の幼児教育施設の「ダブルケアラーにとってのプラスとマイナス」について書かせていただきました。「なんとな~く」ご理解いただけたでしょうか。
それぞれの施設、なにがベストでなにがワーストというものではありません。
もちろん「認可だからバッチリだよね」というわけでも、「企業主導型は新しいから絶対安心!」というわけでもありません。
「今の自分や家族に合う」ことを意識して施設を探して活用してください。
そして「こだまの集い」では「ダブルケアってなに?」からはじまり、「今の自分や家族って、どういう状況なんだろう?」「いま自分が抱える課題はどう解決すれば良いんだろう?」ということを整理して考えることができるようになる「ダブルケア366」というイベントを実施しています。興味のある方はぜひご連絡ください。
そして今回の記事は、次回の更新でひと段落となります。
「こだまの集い」が活動の中心とする「杉並区」にスポットを当てて、具体的な保育施設の場所などをご案内したいと思います。